第9回 数物セミナー合同合宿 リレー式セミナーテーマ紹介
リレー式セミナーには様々なテーマがあるため、特に一年生の方は、各テーマの内容についてよく知らない事と思います。 そこでこのページでは、各テーマが何を扱う学問で、どのような知識を必要とするかについて説明します。 テーマ決めに困ったら、参考にしてみてください。
解析分野、代数分野、幾何分野、離散数学・その他に分類してあります。
実解析【解析分野】
「実解析」とは簡単に言えば実数の関数の解析を「微分積分」などで行う分野です。19世紀に起こった数学の厳密化によりその理論の精密化が進みました。たとえば、同じ積分でもさまざまな種類が考えられることがわかり、当初考えられていたRieman積分よりも積分のできる範囲の広いLebesgue積分を考えることで、関数の性質をより詳しく調べられるようになりました。
数学の厳密化が生んだこの美しい理論にこの数物セミナー合宿で挑んでみませんか?
key Word: 完備性、ε-δ論法、微分可能性、Rieman積分、Lebesgue積分、測度論、フーリエ解析、シュワルツの超関数etc...
複素解析【解析分野】
「実解析」が実数について調べる分野であるのに対して、「複素解析」は複素数について調べる分野です。実数関数の概念を複素数に拡張した「複素関数」というものを考え、そこに微分や積分の概念を考えていきます。
すると、実数の世界では難しかった積分ができるようになるなど、美しい結果や性質があることがわかってきます。そんな複素数の美しい世界にこの数物セミナー合宿で挑んでみませんか?
Key Word: 正則関数、コーシー=アダマールの公式、ローラン級数、留数定理、特異点、コーシーの積分定理etc...
確率論【解析分野】
「確率」というと、高校の数学で出会った方も多いと思われますが、高校の「確率」で扱えるモノは高々有限個の場合だけです。しかし、実際には無限個の事象を扱う機会の方が多いわけです。それを可能にしたのがLebegue積分でした。そのおかげで、さまざまな応用がなされるようになり「偶然」を数学的にある程度厳密に扱えるようになったのです。
ロシアの天才数学者、コルモゴロフが数学的に厳密に扱えるようにした「確率」にこの数物セミナー合宿で挑んでみませんか?
Key Word: 公理的確率論、Lebesgue積分、確率空間、確率過程、大数の法則、統計、マルコフ連鎖、エルゴート理論etc...
微分方程式【解析分野】
世の中の物理的現象の多くは微分を使った方程式で表されています。つまり、この世はその方程式を解くことによって多くのことを知ることができるのです。その方程式を研究する分野が「微分方程式」です。
かなり密接に物理と結びついた分野で、その課題となる方程式の多くが物理学に端を発しています。まさに「数物セミナー」の名にふさわしいこの分野にこの数物セミナー合宿で挑んでみませんか?
Key Word: 常微分方程式、偏微分方程式、解の存在性、コーシー=コワレフスカヤの定理、シュワルツの超関数、ナビエ=ストークス方程式etc...
可換代数【代数分野】
可換環論ともいう。主には多項式環などを扱うのがもともとだが、加群を扱ったりもする。代数幾何やあるいはホモロジー代数などの基礎となる側面もある。
Key word : 完全系列、Hilbertの零点定理、Noether環etc.
Galois理論【代数分野】
代数方程式の解とその係数体の理論。拡大体の理論といえば一言であるが群と体が結びつく理論体系。
Key word : 体の拡大、Galoisの基本定理、方程式の可解性etc.
整数論【代数分野】
とても、身近に存在する「数」というモノ。私たちは「数」がなければ、日常会話もままならないことでしょう。「整数論」は名前の通りそんな「数」についての分野です。数論と言った方がわかりやすいかもしれません。
数学の他分野の知識を使って、「数」の謎に迫るのがこの分野です。19世紀最大の天才ガウスをして「数学の女王」と言わしめたこの分野にこの数物セミナー合宿で挑んでみませんか?
key word: 素数、p進数、合同式、2次体、楕円曲線、類体論、岩澤理論、保型形式、リーマン予想 etc...
トポロジー【幾何分野】
位相幾何学のこと。中学から合同な図形だったり相似な図形など、「ある基準」をもとに図形というものを区別してきた。つまり、連続的な変形に対して不変な性質をもとに図形を区別するのがトポロジーといえる。
Key word: 位相、同相、ホモロジー、基本群etc.
Riemann幾何【幾何分野】
「一般の図形」(多様体)上のベクトルに長さ(計量)付与することで、図形の曲率がわかり、図形の不変量が取り出せたりする。多様体についての基礎的な知識があるとのぞましいと思う。
Key word : 多様体、接続、測地線etc.
Lie群【幾何分野】
連続変換の群に対して多様体の構造が付与したのがLie群といえる。もともとS.Lieは微分方程式を不変に保つ群とは何かというところに端を発していることからも微分構造と代数構造が密接に関係してくる。物理での応用も非常に豊富。
Key word : 位相群、Lie群、Lie環etc.
グラフ理論【離散数学分野】
私たちは電車に乗るときに、路線図というものを見ます。でも、よくよく考えてみると駅というものは路線図そのままの位置関係で並んでいることはまれです。しかしながら、駅という"点"どうしの「つながり」が見えれば、私たちはちゃんと、電車に乗ることができるのです。
「グラフ理論」というのは、そんな"点"と"点"の「つながり」を見ていく分野です。上の路線図以外にも電気回路や、ネットの構造などについて応用があります。「グラフ」という見た目はすごい簡単だけれど、さまざまな広がりを持つこの分野にこの数物セミナー合宿で挑んでみませんか?
Key word: グラフ、木、ハミルトン閉路、マッチング、彩色、流れ、ラムゼー理論、四色定理、巡回セールスマン問題 etc...
計算論
私たちは計算というものを日常的にしています。その計算とはどういうものか、数学的に厳密に扱おうという分野が「計算理論」と呼ばれている比較的新しい分野です。
そもそも「計算できる」とはどういうことなのか?良くアルゴリズムって聞くけど、それって何?さぁ、「計算」という身近だけれど、奥の深いモノにこの数物セミナー合宿で挑んでみませんか?
Key Word: Turing machine、計算可能性、アルゴリズム、コード化、Ackermann 関数、停止性、複雑性、P≠NP予想 etc...
ゲーム理論
「ゲーム理論」と聞いて「なんだ、遊びの理論か」と思った、あなた。ここでいうゲームはあなたの想像しているようなものではなく、もっと広い意味のものです。ここでいうゲームというのは、ある一定のルールにのっとり、プレイヤー達は自分のできる最善の一手を行っていくという一連の流れのことです。これって、さまざまな時に私たちは、意識的にまた無意識的にやっていませんか?そう、これは社会の仕組みを一種の「ゲーム」と捉え、最善の一手を導き出そうとする数学的な営みなのです。
「ゲーム理論」は現在では経済活動をはじめ、政治科学、純粋数学、心理学、社会学、マーケティングなど様々な分野に応用されています。火星人とまで言われた天才ジョン・フォン・ノイマンが作ったこの驚くべき理論にこの数物セミナーで挑んでみませんか?
Key word: ゼロ和ゲーム、非ゼロ和ゲーム、ナッシュ均衡、ミニマックス定理、ロジット均衡、囚人のジレンマ etc...
各分野によって必要となる知識の量が異なるので、三段階に分割しました。
【基礎分野】
基礎学習を始めるに当たり他の物理学の分野の知識をあまり必要としません。(主に学部1~2年で講義がある分野)
解析力学、電磁気学、流体力学、熱・統計力学、光学
【中級分野】
一部の物理学の分野の知識があると良いです。(主に学部2年後期~3年)
量子力学、量子情報、量子光学、相対論、固体物理学、生物物理学、計算物理学
【応用分野】
いくつかの物理学の分野の知識を必要とします。(主に学部3年後期~)
場の量子論、宇宙論
解析力学【基礎分野】
いろいろな物理の基礎となる重要な理論で、Newton力学を解析学によって数学的に洗練したものです。力学を座標の表示に依らない形式へと整理していきます。特に相対論、量子力学へと繋がっていきます。
必要な知識:微積分、力学
電磁気学【基礎分野】
非常に美しくまとめられた理論です。また、多くの人にとって通常初めて触れる場の理論でもあり、場という考え方そのものを学ぶ分野でもあります。Maxwell方程式からは電磁波(光)についての知見も得られます。
必要な知識:ベクトル解析
流体力学【基礎分野】
連続体力学の一分野です。流体を巨視的にとらえ,運動等の力学的挙動を定式化します。こちらも物性や航空力学等いろいろな分野で必要になる分野です。
必要な知識:ベクトル解析、複素解析
熱・統計力学 【基礎分野】
熱力学は経験則だと思われがちですが非常に美しい定式化に成功している整った理論で,マクロな現象を見る基礎的な理論です。統計力学の基礎にもなります。統計力学はミクロとマクロをつなぐ理論です。ミクロな量を確率変数として系の分布から期待値としてマクロな状態を導きます。
必要な知識:多変数解析、確率・統計、(量子統計なら量子力学)
光学 【基礎分野】
光の挙動と物質との相互作用を扱います。幾何光学では光を光線として扱い、波動光学では波動として扱います。Maxwell方程式から得られるので電磁気学の一部という見方も出来ます。回折、屈折、反射、散乱、偏光等を議論します。
必要な知識:電磁気学、Fourier変換
量子力学【中級分野】
ミクロな力学の理論です。粒子が波動性を持っていることを見ます。基本的には解析力学でのHamilton形式の立場から議論を展開します。古典力学でのいろいろなことが破綻していきます。角運動量が重要な位置を占め、スピンという自由度がみえてきます。
必要な知識:線形代数、複素解析、解析力学、電磁気学
量子情報【中級分野】
古典的な情報理論だと1か0のビットによって表現されますが、量子情報では1や0、そしてその重ね合わせ状態を含む量子ビットで表現されます。エンタングルメントや一度観測した情報の破壊等が古典情報との違いです。量子暗号、量子コンピュータ等を議論します。
必要な知識:量子力学
量子光学【中級分野】
量子力学的視点で光学を見ていきます。光学と同じく光の振る舞いと物質との相互作用を議論します。レーザー等、量子エレクトロニクスで重要になってきます。量子力学におけるコヒーレント状態が非常に重要な役割を演じます。
必要な知識:電磁気学、量子力学
相対論【中級分野】
特殊相対論と一般相対論があります。特殊相対論は電磁気から出て来たものです。光速が不変という立場から議論を展開します。一般相対論では重力は時空の曲がりだという立場から質量分布の周りでの時空の曲がり方や曲がった時空内の粒子の軌道について見ていきます。
必要な知識:解析力学、電磁気学、微分幾何
固体物理学【中級分野】
量子力学、熱・統計力学を応用して、微視的側面から固体物質の性質を見ていく分野。電気的、磁気的、熱的、力学的等様々な性質を扱い、また、扱うトピックスも広い。
必要な知識:電磁気学、熱・統計力学、量子力学、(場合に依っては場の量子論)
生物物理学【中級分野】
生物のシステムを物理学、物理化学的な側面から理解しようとする分野。統計力学、熱力学的な立場からモデルをたてて議論していく。生化学やナノテクノロジー、生物工学等と密接な関係にある。
必要な知識:熱・統計力学、生物学
計算物理学【中級分野】
解析的に解けない物理現象の基礎方程式に対して、コンピュータによる数値計算で解を求めることを目的とする分野。理論的でありながらもシミュレーション等もあり実験的でもある分野。計算によって扱うトピックスは宇宙から物性、生物的なことまで様々である。
必要な知識:プログラミング(C言語やFORTRAN等)、あつかう物理分野の知識
場の量子論【応用分野】
量子力学は座標とその時間微分または座標の正準共軛な運動量を基本的な変数として議論を進めたが、場の量子論では場とその時間微分または場の正準共軛な運動量を基本変数に選び、より広い現象を扱える。量子力学と特殊相対論を含み、素粒子理論では量子電磁力学や量子色力学等を議論でき高エネルギー物理をカバーする、物性理論では多体系を扱え、臨界現象や相転移等も議論する。
必要な知識:解析力学、量子力学、特殊相対論、統計力学
宇宙論【応用分野】
天文学や天体物理とは異なり、天体ではなくその「入れ物」である宇宙そのものを扱う分野。多くの場合は宇宙の歴史や、初期宇宙の理論、大規模構造の形成を見ていくことになる。宇宙原理から一般相対論に一様等方な計量をアプライしてさまざまな宇宙モデルや理論を扱うことになる。また、特に初期宇宙では素粒子理論との密接な関係が現れる。
必要な知識:上に上げたいろいろな分野